ケタミンについて、FAST FACTsに聞いてみよう!の続きになります。
FAST FACTs #132 Ketamine in Palliative Careからです。
「その1」はこちらをご覧ください。
FAST FACTsに聞いてみよう! 緩和ケアにおけるケタミンの使い方 #132 その1|緩和ケアに役立つあれやこれ〜緩和ケアの学び方ソムリエが送る耳より情報〜
最近は迅速気管挿管の鎮静薬としても使用機会があるケタミンです。 緩和ケア領域でがん疼痛に対して使用することもあるのですが、 私自身はあまり経験がありません。 使用したのは10年間で2回ほど・・・ もう知識が忘却のかなたになってましたので、 FAST FACTsで復習してみました。 今回は FAST FACTs #132 Ketamine in Palliative Care からです。 分量が多いので、2回に分けて解説していきます。 脊髄後角のカルシウムチャネルにN-メチル-D-アスパラギン酸/グルタミン酸受容体(NMDA受容体)に作用する。 この受容体はオピオイド抵抗性の痛みや、神経因性疼痛、アロディニア、痛覚過敏に関与している。 (FAST FACTs #132 Ketamine in Palliative Careより引用、意訳) まあ臨床的に知っておきたいポイントはここら辺でしょうね。 オピオイドとは違うチャンネルに作用する点と、 アロディニアなどのように難治性疼痛に分類されるような、 対応に困る痛みに関与している点を抑えておきましょう〜。 麻酔薬としては静脈内または筋肉内に投与 鎮痛薬としては、経口、鼻腔内、経皮、直腸、皮下などの方法で、より低用量で投与可能 鎮痛作用の発現は15~30分、作用時間は15分~2時間、経口投与ではそれ以上になる 経口投与されたケタミンの鎮痛作用が臨床的に有意に低下するかは明らかではない モルヒネ、低用量デキサメタゾン、ハロペリドール、メトクロプラミドと混合しても物理的に安定している CYP34Aと相互作用する薬剤は、その代謝に影響を与える可能性がある(例:アゾール系抗真菌剤、マクロライド、HIVプロテアーゼ阻害剤、シクロスポリンなど) (FAST FACTs #132 Ketamine in Palliative Careより引用、意訳) 相互作用は臨床的には重要な知識 になります。 特に高齢者で基礎疾患がある方は、症状緩和以外の薬剤も多く使用しています。 予想外の副作用を予防するために必要な知識ですね。 とはいえ、全てを覚えておくのは無理なので、 ここは 薬剤師さんと上手く連携 できると良いですね。 さて、薬物療法をする上で、必ず抑えておきたいのは副作用ですね。 精神刺激現象(不快感、感情の鈍麻、精神運動遅延、悪夢、幻覚) 頻脈 唾液分泌過多 (FAST FACTs #132 Ketamine in Palliative Careより引用、意訳) こんなところかなあ。 WAGIも使用経験が少ないので、もっと重要な副作用があるよ!って方はこそっと教えてください。 悪夢はよく話題になる副作用ですね。 今回はケタミンの薬理学的な特徴を中心に、 FAST FACTsに聞いてみました! 次回は鎮痛効果など、より臨床的な点を中心に聞いてみましょう。 (アイキャッチ 画像: PACUTASO より引用)
鎮痛効果
気になる鎮痛効果についての記載で、ポイントは以下の通りです。
- 癌性疼痛や神経因性疼痛に対する鎮痛薬として、ケタミンを支持する大規模な対照試験は存在しない
- 症例報告や後ろ向き調査、非対象試験は多く存在し、がんや神経障害による非がん性の痛みを緩和することが示唆されている
- 鎮痛作用を期待する場合、短期間の「バースト治療」を検討する
日本のガイドライン上の位置付け
こう言った使い方とかは、ある程度日本の臨床現場の実情とも合わせて知る必要がありますので、
日本のがん疼痛のガイドラインの記載も紹介しておきましょうね。
こちらが2020年に改定されたガイドラインです。
このガイドライン、日本緩和医療学会のホームページからPDFでダウンロードできるよ〜
冊子で欲しい人は購入しましょう!
このガイドラインでケタミンに関する記載は以下の通りです。
強オピオイドや鎮痛補助薬が投与されても、適切な鎮痛効果が得られていない、難治性のがん疼痛のある患者に対して、オピオイドに加えて、ケタミンの併用を条件付きで推奨する。
2C(弱い推奨、弱い根拠に基づく)
条件 強オピオイドや鎮痛補助薬を増強しても、十分な鎮痛効果が得られない、
または有害作用のため、今日オピオイドや鎮痛補助薬を増強できない時。
(「がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン2020」より引用)
私もこのガイドラインに準拠して、オピオイドや鎮痛補助薬を適切に使用した上で、
不十分な鎮痛の際にケタミンの使用を考慮するって感じですね。
鎮痛以外の使用
- ケタミンの局所投与は、口腔洗浄剤として粘膜炎の治療の際に用いることができる
- 神経障害の治療にゲルとして使用する
- 抗うつ作用があり、投与後に数時間以内に抗うつ作用を示すが、経験的なものである
なるほど〜
実はいろんな使い方の可能性がありますね。
この辺りは院内調剤も必要になるやり方ですので、
薬剤師さんとの議論もしてみたいところです。
一般的な投与方法
- 成人における初期の静脈内投与量は50〜100mg/日
- 25〜50mg/日のペースで増量を検討
- 通常の有効量:100〜300mg日
- 経験的なアプローチとして、ケタミンの投与を開始する際に、もともと投与していたオピオイドを25〜50%減らすこともある
投与量の記載は前述した日本のガイドラインと大きく変わらないですね。
参考までに記載しておきましょう。
- 開始量:0.5〜1mg/kg/日 持続静注/持続皮下注
- 維持量:100〜300mg/日 持続静注/持続皮下注
- 調整 :1日ごとに0.5〜1mg/kgずつ精神症状を観察しながら増量
ほぼ同じですね
実際に使用する場合は、自分でも確認しましょうね〜
まとめ
基本的な緩和ケア実戦ではなかなか使用する機会のないケタミン。
専門的緩和ケアの立場だと、時々使うかなって薬なので、
時々、復習するのが大切ですね。
それにしても、FAST FACTsは本当にいいですね〜
Fast Facts 緩和ケアのUp to Date|緩和ケアに役立つあれやこれ〜緩和ケアの学び方ソムリエが送る耳より情報〜
緩和ケアの実践で疑問が思い浮かんだ時、パッと調べたい時ってありますよね。 そんなときの強い味方が、Fast Factsです! Fast Factsは米国のWisconsin大学の緩和ケアグループが管理しているホームページ内にあり、 400以上の緩和ケアに関するトピックに対するコンパクトなまとめが掲載されています。 トピックの例をいくつか挙げてみましょう。 #1, 終末期せん妄の診断 #15. 便秘 #20. オピオイドの増量 #30. 予後予測 #125. PPS(The Palliative Performance Scale) これらは、緩和ケアではかなりメジャーなトピックですね。こういったトピックが1〜2ページ程度の分量でまとめられています。 さらに、以下のような緩和ケア領域特有の問題としては、以下のようなトピックでしょうか。 #23. DNRオーダーの議論 #46. 悪性疾患による皮膚潰瘍 #148.リドカインパッチについて #306. 緩和ケアにおけるメラトニンの役割 #322. 終末期におけるスタチンの中止 いかがですか?一般的な内科の教科書にはあまり触れられていなかったり、なかなかまとまった資料のない領域ですよね。こういった、”痒いところに手が届く”情報源として、私は愛用しています。 特別な契約やアカウント作成は必要ありません。 なんと、無料なのです! そして、各トピックはPDFがダウンロードできます!これは使わない手はないですよね。 ご自身の学習や、勉強会などに是非是非ご活用ください。